限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人(亡くなった人)の残した債務や遺贈について責任を負う、という条件付きで相続を承認するというものです。
相続財産のうち、消極財産(借金のこと)が積極財産を上回っている場合には、相続の放棄をすればよいのですが、突然亡くなった場合など消極財産と積極財産のいずれが多いかが不明の場合には、限定承認を選択すれば良いでしょう。
普通、相続が始まると単純承認といって、そのまま被相続人の財産を引き継ぎます。(民法920条)
しかし、被相続人の中には、借金を残して亡くなったケースもあります。
このように借金を残したまま亡くなった被相続人のマイナス財産も、相続人が引き継がなければならないのでしょうか?
もしマイナス財産の方が多い場合、相続人は限定承認、または相続放棄を申してることができます。
ただし、限定承認や相続放棄を熟慮期間内に意思表示をしない場合は、単純に相続を承認(単純承認)したものとみなされ、相続人は亡くなった被相続人の債権とともに債務も引継ぐことになりますから注意が必要です。
そのまま、被相続人の財産を相続する単純承認は、意思表示のための手続きは不要です。
尚、相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継するしますから、相続財産(プラスの財産とマイナスの財産)が複雑な場合は、限定承認をした方が良いかも知れません。
限定承認を行うには、
① 家庭裁判所への申述
相続人が限定承認をしようとするときは、3か月の熟慮期間中に財産目録を調製して家庭裁判所に提出し、限定承認の申し出をしなければなりません。
申述には、被相続人の財産の範囲を明確にするため財産目録の調製、提出が必要とされていますが、財産の価額までは記載する必要はありません。
被相続人に資産がないことが明白な場合でも限定承認をすることはできますが、相続財産がないことを財産目録に記載します。
ですから、被相続人に消極財産(借金)だけがある場合には、それを財産目録に記載します。
また、相続人が被相続人の財産調査にも関わらず積極財産(プラスの財産)・消極財産(マイナスの財産)の資産内容を明らかにできなかった場合には、限定承認申述書にその旨を記載すれば足ります。 (大阪家審昭44.2.26家月21巻8号122頁)。
限定承認は家庭裁判所が審判によって成立します。
審判では、相続資格等の形式的要件の具備の有無や、申述が熟慮期間内になされたものであるか、限定承認の申述が申述人の真意によるものであることか等の確認もなされます。
受理の審判は限定承認の要件の具備を前提に、一応その旨を公証するもので、既判力はありません。
上記要件を具備しない不適法な申述であった場合は、たとえ受理の審判がされても、最終的には民事訴訟によって確定されることになります。
尚、限定承認の受理をする審判に対しては、不服申立てはできません。
相続人が数人いる場合(共同相続人)は、限定承認は、相続人全員が共同で申述しなければなりません。
各相続人の熟慮期間は別々に進行するため、相続人の一人について熟慮期間が経過した場合には、その者は単純承認したものとみなされ、他の相続人が限定承認ができなくなるのではないか問題になります。
このような場合は、一部の相続人について法定単純承認事由が発生しても、他の相続人は、その熟慮期間内であれば、なお相続人全員で限定承認ができると考えられます。 (東京地判 昭30.5.6下民集6巻5号928頁)。
相続放棄をした者がいる場合には、その者は初めから相続人とならなかったものとみなされますので、その相続人以外の他の相続人全員が共同して限定承認を行うことができます。
限定承認をした相続人は、相続財産の管理を継続しなければなりません。
相続人が数人ある場合には、家庭裁判所が相続人の中から、相続財産管理人を選任しなければなりません。
財産管理人は、相続人のために、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の権限を有します。
限定承認の効果はどうなるの?
責任の範囲
限定承認をした相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の残した債務及び遺贈を弁済する責任を負います。
ですから、相続債権者が限定承認をした相続人の固有財産に対し強制執行をしてきた場合は、相続人はその強制執行の排除を求めることができます。
相続によって得た財産とは、相続の開始当時、被相続人に属していた財産のうち、被相続人の一身に専属しているものを除外する一切の積極財産をいいます。
たとえば、相続開始前に被相続人から不動産を譲り受けた人や抵当権設定者などで相続開始前に登記をしていなかった人は、相続債権者に対してその権利取得を対抗できませんので、その不動産はいずれも相続財産に含まれます。
相続財産の清算
① 公告と催告
限定承認が認められると、相続財産をもって相続債権者と受遺者に弁済するため、清算手続が行われます。
限定承認者は、一切の相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告します。
ただし、限定承認者に判明している債権者に対しては、各別にその申出を催告することが必要です。
公告や催告には債権者が期間内に申出を行わないときは、その債権者は清算手続から除外されるべき旨が記載されます。
② 清算
債権申出期間が満了した後、相続財産の中から、債権者に対し、債権額の割合に応じて弁済します。
受遺者に対する弁済は、相続債権者に弁済した後に行います。
限定承認をした相続人は、公告期間の満了前には、弁済を拒絶する権利が認められています。
相続債権者がその債権について、確定判決等を得ていても、限定承認者はその執行を拒絶することができますし、相続債権者としては新たに執行手続を開始できないことになります。
また、限定承認といえども優先権を有する債権者の権利を害することはできないとされますから、留置権、先取特権、質権、抵当権等を有する債権者は、債権申出期間内であっても、その権利を行使し
③ 競売
弁済に際して相続財産を換価する必要があるときは、公平を期するため競売によるのが原則です。
相続債権者や受遺者も自己の費用で相続財産の競売又は鑑定に参加し、意見を述べることができます。
しかし、限定承認をした相続人が競売の方法によらないで弁済を行なうことを希望する場合は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い、相続財産の全部又は一部の価額を金銭で弁済して競売を差し止め、そのかわりに相続財産の全部又は一部を引き取ることができます。
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